随筆−テラテックのしごと  

 
 下記の随筆は、2005年当時に書いたものです。とはいえ、昨今の原油高(投機的な側面が大きいにせよ)の状況
を考えると、オイルピーク関連の資源枯渇の内容は決して古い話ではなく、むしろ、徐々に進展しつつあると言わざる
を得ません。それだけでなく、バイオ燃料化の問題によって、食料問題にも波及してきました。

 一方で、いよいよ本年から京都議定書における第一約束期間が始まり、世間はCO2削減の話題で持ちきりです。
ここでは、「CO2温暖化仮説」−多くの人が誤解していますが、あくまで「仮説」です− の是非を論評するのは控え
ますが、何はともあれ、世間の皆様が、マータイ女史の提唱した「MOTTAINAI」の精神を少しでも理解して、省エネに
取り組んでくれれば、私達にとってもうれしい限りです。 (以上、2008年6月加筆)


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  私達は、トンネル、特に水力発電所設備の水路トンネル等の維持補修に関わるコンサルティ
ング業務を主に行っております。

 具体的には、外部調査(地形地質踏査、測量等)、内部調査(目視点検、各種測定等)など
の様々な診断調査を行うことによって、設備の安全性を検討し、必要に応じて対策計画を策定
する、ということをやっております。
 
 維持補修、という語は、人間の体で言うところの「リハビリ」という概念に近いものです。また、
良くも悪くも最近話題になっている戸建て建築での「リフォーム」という言葉も、同様の意味を 
持っています。

 ただし、リハビリという語には、悪くなってからのの「治療」、という意味しかありませんが、私
達の仕事には、そのような「治療」だけでなく、設備が悪くなる前の「予防」、さらには、むしろ現
状よりもっと健康にしてしまおう、という「健康増進」の要素も含んでいます。

 見た目は堅牢なコンクリートで造られていて、なんだか永久に持ちそうに見える水力発電所と
かダムとはいえ、人間の体や普通の家と同じように、古くなると必ずガタがきます。そのガタ
は、人間が年をとると足元からおぼつかなくなるのと同様、立地している足元の「地質・地盤」
の劣化に起因することが多いのです。

 医者が、患者を「診断」する場合は、人間の体を研究した学問、すなわち「医学」を用います
よね? 我々も、水力発電所の設備を「診断」する際には、足元の劣化要因を理解する学問で
ある「地質学」と、設備を造るための学問である「土木工学」を駆使して、

 「設備の悪いところをこう直したらいいですよ」(治療)とか、
 「ここが悪くなりそうなので今のうちに直しておきましょう」(予防)とか、さらには、
 「こうすればもっと設備の寿命が延びちゃいますよ、お得でっせ」(健康増進)とか・・・

 このように、患者の保護者(=水力発電所の管理者の方)に、このような処方箋を書いてあ
げるのが、私達の仕事です。 
 
 少しはわかっていただけましたでしょうか(^_^)? 

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 さて、恐らく、ここまで読んだ貴方は、「偉そうに言っているけれど、何かの計器やコンピュー
ターでピッピッピとやれば数値が出てきて、ハイおしまい、なんだろう」くらいに受け取られたの
ではないでしょうか?
 
 確かに、そういう手法はたくさんあります。世間の大半はそのような「格好良い」手法を好む
風潮にあります。ですが、そればかりでは、決してうまくはいかないのです。

 何故でしょうか? 例えば医者は、いくらMRIとかの最先端機械があるとはいえ、そればかり
で患者を診断しないですよね。やはり基本は、従来技術である、問診とか、聴診器を当てると
か、脈を診る、にある訳です。それができてこその「名医」と呼ばれるので、MRIの使い方がう
まいからと言って、「名医」にはなりません。
  
 私達の診断も全く同じです。基本はむしろ、周辺の山を歩くとか、岩やコンクリートを叩くと
か、削ってみるとかの、言葉は悪いですが、「泥臭い」手法にあります。私達は、日進月歩の
「格好良い」手法への学習と、それの有効性は適宜利用しつつも、基本的には「泥臭い」手法
を使って、日々汗を流して現場を歩いています。

 さらに、医者の診断と私達の診断とで大きく異なるのは、対象となる患者の変化です。

 100年前と現代とで、医者の対象である人間の体の基本構造は変わらない(昔の人の方がた
くましかった、とかの次元ではなく)ので、医者の診断技術は、今の人にも昔の人にも、原則と
しては同じように適用できます。もっとかみ砕くと、今の医者が100年前にタイムスリップしたとし
ても、MRIとかはないし、薬も不足しているかもしれませんが、十分対応できますよね。きっと。
(もしこれを読む貴方がお医者さんで、私の文章に誤解を感じるようでしたら、是非メールしてく
ださい。建設的にいろいろ話し合いたいです。(^^;))

 ですが、私達の対象とする患者である設備(トンネル)は、100年前に造られたものと最近造
られたものでは、仮に全く寸法形状が同じだったとしても、大きく性質が異なっているものなの
です。というのは、造り方が違うからです。

 現在のトンネル(特に日本において)は、コンピューターでピッピッピと計算して図面を書い
て、大型機械で造ってしまいます。いわば「格好良く」造っています。トンネル工事現場という
と、プロジェクトXで紹介された青函トンネルとか、少し古いところでは映画「黒部の太陽」のよう
に、岩と水との戦い、と思っている人が多いかもしれません。ですが、最近のトンネル工事現場
はとても綺麗です。まるで工場のようです。最近、労働基準法が改正になって女性労働者もト
ンネル現場に入れるようになりそうですが、そのような背景があります。

 それに対して、100年前は、まさにソロバンで計算して手で図面を書いて、人夫がハンマーで
岩を削ってトロッコで運ぶ(もう少し時代が新しくなるとダイナマイトが出てくる)という、まさに「黒
部の太陽」のイメージそのままの「泥臭い」、、少しマシな言い方に替えますと、「古典的な」手
法で造られています。

 基本的な診断技術は、新しかろうと古かろうと、同じです。ただ、「古典的な」造り方をしてい
る昔の設備には、それらの「古典的な」造り方を理解した上での診断をしなければなりません。
他業種で例を挙げれば、同じ大工でも、法隆寺とかの再建を手がける宮大工と、一戸建てを
造る大工では、切る削る叩くの基本技術は一緒でも、扱う建造物は全く違うのとの、同じような
ものです。(なお、宮大工と普通の大工の、どちらが偉いということではありません。念のため)

 そのような古い設備にこそ、私達の出番です。在来手法による施工経験を兼ね備えた専門
的集団である我々は、的確な調査手法を提示できます。そのため、余計な出費を強いることな
く、また、小集団ならではのフットワークの良さにより、効果的なコンサルティングを行うことが
できるのです。

 ちなみに、手前味噌ながら、このような専門集団である私達への、水力発電所を管理されて
いる顧客の皆様からの信頼度は非常に高いのです。このような業務は、通常は大手のコンサ
ルタント企業に発注されることが多いところを、我々のような弱小有限会社に、しかも毎年の定
期点検を依頼していただけているのが、その証しです。

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 また同時に、話が大きくなりますが、我々の仕事は、資源問題・地球環境問題へと多大なる
貢献を果たしている仕事であるものと、自負しております。
 少し長くなりますが、その理由を以下に取り纏めてみました。

 地球温暖化問題に代表される環境問題が唱えられ出してきて、随分年月が立ちました。
 
 その間、社会における意識も随分変わってきました。
 
 CO2削減6%(1990年比)、という、京都議定書で決まった国際公約の達成に向けて、今夏
は「クールビズ」というファッションが一種の流行のようになっています。貴方の周りでも、「自分
はこんなことを意識して取り組んでいる」という方も多いのではないでしょうか。
 
 話は変わって、最近、「オイルピーク」という学説が唱えられているのを、ご存じでしょうか? 
「石油生産量が、今年、おそらくは来年――ほぼ確実なところでここ10年以内――にはピーク
を迎え、下り坂に転ずる」という説です。

 「なんだ、そんな戯言、30年も前から言われていたけれど、ちっとも石油はなくならないじゃな
いか。」と、貴方は思われたかもしれません。

 多分誤解しているであろう貴方のために、細かく説明しますと、「石油そのもの」はなくなりは
しないでしょう。ただ、油田の発見や、その採掘が、年々難しくなってきている、見つかっても小
さかったり質の悪い油田ばかり、というのは厳然たる事実です。すなわち、徐々に採算ベース
に乗りにくくなるため、「石油生産量」が徐々に減っていく、ということです。

 日本の石炭産業の歴史を振り返ってみると、もっとわかりやすいかと思います。日本の石炭
は決して枯渇してはいません。ただ、地下深くの鉱脈から掘り出してくるのは採算がとれない、
ということで、石炭鉱山は次々と閉山していったのです。

 省エネ技術や採掘技術の劇的な進歩により、オイルピークの到来時期を多少先送りしたり、
その下り坂を緩やかにできるかもしれませんが、ピークの到来自体は不可避です。

 多少専門用語を並べますと、EPR(Energy Profit Ratio)という指標があります。これは、以下
の比で表されます。

EPR =出力エネルギー/ 入力エネルギー
 =石油を燃やして得られるエネルギー/その石油の探索、採掘、運搬、精製にかかるエネルギー
  <石油の場合>

 この比が1を下回る、ということは、採掘とかのエネルギーの方が余計に掛かってしまうという
意味になり、エネルギー源として成り立たない、ということを示します。

 EPRを紹介している論文に、「ウサギ限界」という例が挙げられています。ある人がウサギだ
けを愛する狩人だったとして、ウサギを探すためにエネルギー(体力)を使わなければならない
のですが、そのエネルギー量は、ウサギから得られるエネルギー量(栄養分)を超えてはなら
ない、超えたら空腹で死んでしまう、だそうです。当然ですよね。
 
 20世紀初めの石油生産は、EPR=25を示していたのに対し、現在、10未満にまで落ち込んで
いると言われています。特に、アメリカ国内での石油生産は、3未満に下落しているそうです。

 上の数字を知って知らずか、最近は、地球環境問題には不熱心なアメリカ政府も、石油・資
源問題には必死になっているようです。あのイラク戦争すら、オイルピークへの危機感から引
き起こされた、と唱える人もいます。凄まじい人口増加と経済成長を続ける中国が、アメリカと
競い合うように石油を消費し出したら・・と考えると、アメリカの危機感も分かろうというもので
す。

 昨年末に、若干の減産気味の情報で石油価格が高騰し、ガソリン・灯油価格が10円近く引き
上げられました。それだけ現在の国際社会は、石油に対してセンシティブなのです。オイルピ
ークの到来する時期はさておき、その風評だけで、オイルショックの二の舞となるのは目に見
えています。

 これを読んでいる貴方自身は、もしかしたら地球環境問題などは「対岸の火事」程度にしか
思っていないかもしれません。ですが、ガソリンや灯油の値段が倍増する、となれば、俄然心
配になるはずです。

 石油の代替エネルギーについては、いろいろと議論・研究されてきました。

 日本の国策は原子力です。原子力の是非はここでは触れません。ただ、放射性廃棄物処理
問題など、一筋縄ではいかないことは事実です。

 もう一方の解決策としては、水力、太陽光、風力、バイオマス、地熱、波力などの「自然エネ
ルギー」(再生可能エネルギーとも呼ばれる)があります。環境問題との絡みで、太陽光、風力
などが盛んに持て囃されています。ですが、立地・自然条件に左右されて発電が不安定なこ
と、エネルギーの密度が低く、かつ、発電効率が低いことから、発電コストが高くなる、などのデ
メリットがあり、小規模ならまだしも、大規模な電源として商業ベースに乗せにくいことがネック
です。 

 それに対し、安定的な大規模電源として取り扱うことができる再生可能なクリーンエネルギー
は、現時点では、水力発電だけと断言できる状況です。

 ただ、今日の日本では、某県知事の「脱ダム宣言」に代表されるように、ダムへの風当たり
が強く、水力発電に必要なダムの新設が難しい状態です。

 だからこそ、既にあるダムや水力発電所設備を長持ちさせて有効利用する−すなわち我々
の仕事−こそが、資源問題のみならず地球環境問題への根源的な貢献、と言えるのではない
でしょうか。

(文責:宮崎)


  興味のある方は、以下の参考文献もご覧ください。
 
 ・電気事業連合会HP
 ・石井吉徳氏(東京大学名誉教授、元国立環境研究所長)HP 「地球は有限、自然にも限りがある」
 ・HOTWIRED JAPAN- 「環境と未来」 より
   ・石油生産量が来年から減少? 「オイルピーク」論争
   ・エネルギー危機で再び注目を集める水力発電


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